2016年07月26日

ガリオンは片方の手で鞍に


「エルゴンの岩山?」バラクが聞き返した。かれはすでに重々しい剣を抜いている。
「丸石におおわれた高い丘のことです。言ってみれば、砦のようなものですね。エルゴンという人物は一ヵ月ものあいだそこに立てこもってミンブレイト兵の攻撃を防いだんですよ」
「使えそうだな」シルクが言った。「少なくとも森から離れられる」かれは、霧雨を浴びながら気味悪く迫ってくる木立を、苛立たしそうに眺めまわした。
「よし、そこに行ってみよう」ウルフが決定を下した。「やつらはまだ襲える状態じゃないだろうし、雨で臭覚がにぶっているはずだ」
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 そのとき、森のうしろから不気味な吠え声が聞こえてきた。
「あれがそうなの?」ガリオンの声は、かれ自身の耳にさえかん高く響いた。
「仲間どうしで呼びあっているのだ」ウルフはかれに言った。「やつらのなかにわしらの姿を見たものがいるんだろう。すこしスピードを上げよう。だが、岩山を見るまではけっして走るんじゃないぞ」
 ぬかるんだ道が低い尾根の頂上にむかって上り坂になってくると、かれらは神経過敏になっている馬の歩調を徐々に速足に変え、着実に距離をかせいだ。「半リーグです」レルドリンは緊張した声で言った。「あと半リーグで岩山が見えるはずです」
 馬を御するのは容易ではなかった。どの馬もギョロギョロと目をむきながら、あたりの木立に視線を走らせている。ガリオンは胸が激しく鼓動して、口の中が突然カラカラに乾くのを感じた。雨脚がすこし強くなってきた。と、かれは視界の角で何かが動いたのを感じて、すばやくその方向に目を向けた。森の中に百歩ほど入ったところで、人間のような姿をしたものが道路と平行に跳んでいた。両手を地面につき、なかばしゃがむようなかっこうで走っている。ちょっと見たところ、胸くそ悪い灰色をしている。「あそこ!」ガリオンは叫んだ。
「いたな」バラクがうなり声をあげた。「トロールほどでかくないぞ」
 シルクは顔をゆがめて、「あれだけ大きけりゃ十分だよ」
「もしあいつらが襲ってきたら、かぎ爪に注意するんだぞ」ウルフが警告した。「毒をもってるからな」
「こりゃおもしろくなってきたぞ」とシルク。
「岩山だわ」ポルおばさんが穏やかに告げた。
「よし、走れ!」ウルフが吠えた。
 急に手綱をゆるめられて驚いた馬たちは、前のめりに跳びあがり、ひづめを激しく動かしながら道を駆けのぼった。とそのとき、うしろの木立でフーッといううなり声が聞こえ、あたりの吠え声がどんどん大きくなってきた。
「あと一息だぞ!」ダーニクはみんなを励ますように叫んだ。だが、その瞬間六頭のアルグロスがうなりながら眼前の道路に立ちはだかった。両腕を広げ、背筋が寒くなるほど大きな口を開けている。体は巨大で、猿のような腕と、指のかわりにかぎ爪をもっている。顔はヤギのようで、その上に短いが鋭くとがった角がある。そして、長くて黄色い牙。灰色の皮膚はうろこ状で、爬虫類のようだ。
 馬はいななきながら後ろ足で立ち、逸走しようと必死になっている。しがみつき、もう片方の手で手綱と戦った。
 バラクは剣のひらで馬の尻をたたき、獣の脇腹を容赦なく踏みつけた。その荒々しさときたら、しまいには踏まれているアルグロスより馬のほうが怯えてしまうほどだった。バラクはそのまま突き進みながら剣を両側に大きくふた振りして、二頭の獣を殺した。三頭目はかぎ爪をひろげてかれの背中に跳びつこうとしたが、レルドリンが放った矢の一本が肩のあいだに刺さると体を硬直させ、顔を下にむけたまま泥の中にドサッと倒れ落ちた。バラクはその場で馬をくるりと回転させ、残る三頭の獣をたたき斬った。「よし、行くぞ!」かれはどなった。
 ガリオンはレルドリンのあえぎを聞いてすぐに振り向いた。背中からはいあがるような恐怖を感じながらかれが見たものは、道路わきの木立からはい出てきた一匹狼のアルグロスが、今まさにかぎ爪でレルドリンを鞍から引きずりおろさんとしている光景だった。レルドリンは弓を使ってそのヤギ面をわずかにたたいている。ガリオンは無我夢中で剣を抜いたが、そのときにはもう、うしろから来たヘターがその場に着いていた。かれの彫刻入りのサーベルに体を突き抜かれると、アルグロスはギャッと悲鳴をあげ、荷馬が足踏みしている地面にもがき苦しみながらくずれ落ちた。
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2016年07月13日

だらけの通りを歩


 


 ガリオンは別の攻めかたを試みた。「それにミスター?ウルフだけれど、ぼくはこれまでずっとただの語り部のおじいさんだと思っていたんだ」
「あの人は通りいっぺんの風来坊じゃなさそうだ」ダーニクは認めた。「われわれは重要な任務にたずさわる偉い人々の仲間入りをしたようだぞ、ガリオン。おまえ嬰兒濕疹やわたしのような単純な人間はあれこれせんさくせず、目と耳をしっかりあけておいたほうがいいのかもしれん」
「これがすっかり終わったら、ファルドー農園へ帰るの?」ガリオンは慎重にたずねた。
 ダーニクは雨のふりしきる宿屋の中庭に目をやりながら考えた。「いや」ようやくかれは低い声で言った。「マダム?ポルの許しがあるかぎり、どこまでもついていくよ」
 とっさの衝動にかられてガリオンは手を伸ばし、鍛冶屋の肩をたたいた。「何もかも一番いい結果になるよ、ダーニク」
 ダーニクは溜息をつき、「そう願うとしよう」と言うと、馬に注意を戻した。
「ダーニク、ぼくの両親を知ってた?」
「いや。わたしが最初に見たとき、おまえはマダム?ポルの腕に抱かれている赤ん坊だった」
「そのときのおばさんはどんなだった?」
「怒っているようだったな。あれほど激しい怒りは見たことがなかったような気がするよ。彼女はしばらくファルドーと話をしてから、台所働きの仕事についた――ファルドーの気性はおまえも知っているだろう。かれはくる者を拒んだことはただの一度もない。当初彼女は単なる手伝い女だったが、それは長くはつづかなかった。それまでいた年よりの料理女がしだいに肥ってなまけ者になり、とうとう末娘と同居するために辞めてからは、マダム?ポルが台所をきりまわすようになった」
「その頃のおばさんはすごく若かったんでしょう?」
「いや」ダーニクは考え深げに言った。「マダム?ポルは全然変わっていない。今もあの最初の日とまったく同じに見えるよ」
「きっとそう見えるだ嬰兒濕疹けだよ。齢をとらない人間なんかいないもの」
「マダム?ポルはちがうんだ」ダーニクは言った。
 その夜、ウルフと尖った鼻の友だちが戻ってきた。二人の顔は落ち着いていた。ウルフは雪のように白いひげをしごいて短く言った。「なんでもなかった」
「だから言ったでしょう」ポルおばさんがからかうように言った。
 ウルフはいらだたしげに彼女を一瞥してから肩をすくめた。「念には念をいれんとな」
 鎖かたびらを磨いていた赤ひげの巨漢バラクが顔をあげて、たずねた。「まるで痕跡なしかい」
「気配もない」ウルフは答えた。「やつはここを通らなかったのだ」
「とすると、今度の目的地は?」バラクは鎖かたびらをどけて訊いた。
「ミュロスだ」ウルフは言った。
 バラクは立ちあがって窓に近づいた。「雨は小降りになってるが、道はぐちゃぐちゃだぜ」
「いずれにせよ明日出発というわけにはいかないよ」ドア近くの腰かけに坐りこんでいるシルクが言った。「カブを処分しなけりゃならない。カブを積んだままダリネから出ていったら変に思われるし、うろついているマーゴ人と言葉をかわす見込みのある連中におぼえられてはまずい」
「そのとおりだ」ウルフが言った。「一刻も時間をむだにしたくはないが、いたしかたあるまい」
「一日雨があがれば道もよくなるだろうし、荷馬車がからなら速度もあがる」とシルクが指摘した。
「カブはまちがいなく売れるんですか、シルク?」ダーニクが訊いた。
 シルクは自信たっぷりに答えた。「わたしはドラスニア人だ。なんでも売っちまうさ。もうけることもできるかもしれない」
「そのことなら心配いらん」ウルフが言った。「カブは需要があるのだ。今われわれがしなけりゃならんのはカブをかたづけることだけだ」
「原則の問題だな」シルクは気どって言った。「それに、ぬけめなく取引きをまとめようとしないと、そのことも印象に残ってしまう。心配ご無用。取引きはすぐすむし、そのせいで出発が遅れることはない」
「一緒に行っていい、シルク?」ガリオンは期待をこめて言った。「この宿屋以外、ダリネの他の場所を見ていないんだ」
 シルクは物問いたげにポルおばさんを見た。
 彼女はしばらく考えてから言った。「別に悪いことはなさそうだわね。わたしも手がすいて片づけ物ができそうだし」
 翌朝、食事がすむと、シルクはカブの袋をかついだガリオンを連れて出発した。小男はことのほか機嫌がよいらしく、長い尖った鼻がふるえんばかりだった。丸石敷きのゴミきながらかれは言った。「大事なのは売りたい気持を露骨に見せないことだ――そしてもちろん、市場を知ることだな」
「もっともだね」ガリオンは礼儀正しく言った。
「きのうちょっと調べてみたんだが」とシルクはつづけた。「カブはドラスニアのコトゥの波止場では目方百につきドラスニア銀貨一リンクで売られているんだ」
「一なんて言ったの?」
「ドラスニアのコインの名称さ――インペリアル銀貨一枚にだいたい匹敵する――まったく同じというわけじゃないが、まあ似たりよったりだ。買い手はわれわれのカブをその四分の一の値段で買おうとするだろうが、最終的には二分の一まで出すだろう」
「どうしてわかるの?」
「それが習慣なんだ」
「ぼくたちのカブはどのくらいあるんだろう?」通りのゴミの山を避けて通りながらガリオンは訊いた。
「三千だ」
posted by の离别に一縷 at 20:49| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2016年06月28日

捻らないから痛みは

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沖師匠の言葉「なあ、イサオ、フリージャズなんちゅう暗い音楽さ、実生活がさ、明るくないとできねぇーよなぁー。(阿部)薫なんかさ、実生活まで暗いから、あーなっちゃったんだよ」。阿部薫、二十九歳の時に睡眠薬二十九錠を飲み事故(となっている)死。沖師匠がデビューさせたミュージッシャンの一人。私の先輩にSCOTT 咖啡機あたる。エンドレスの迷宮に疲れちゃったんだろうな、たぶん。エンドレス的過労にはお笑いが一番。

「裕センセ、簡単に無調性即興音楽をする方法は?」
「そうねぇー、ピアノに頭突きとか肘打ち、これでいいわ」
「あれっ? なんでおねぇー言葉なんですか?」
「あーた、性別には男と女とホモレズバイだけじゃないのよぉー、両性具有という、もう少し高尚なジャンルもあるの。分かるかちら? でね、今日のブログの調性をおねぇーにしたのよ」
「両性具有? バイじゃないんすか、それ?」
「ばぁーたれっ、バイじゃないのよ。アンドロジヌスよ。そうねぇー、ある意味、セックスレスなんじゃない、それって。あたいたちは動物なんだけれど、繁殖活動から離脱するとセックスレス、つまり、動物じゃなくなるのよ、理知の人になるのよぉー、理知、お分かり?」

わんとうこっきん」という腕の筋肉。調べたのである。名称を知らなかった。右手でいうと肘から下の右側の筋肉。諸々の腕の旋回機能を司る筋肉。

この筋肉をカミサンが傷めたのが半年前ぐらいだった。自分で髪も洗えない家事もできない湯沸しを持ち上げられない。医者に通い、マッサージを行い、名前分からないけれど、自然の石膏みたいのを腕に巻き、サポーターをし、クリームを塗り。「わぁー、一生治らないのかしら?」とかなりめげていた。原因は、同じ動作からくる筋肉過労。安静にしていれば治るとのこと。とはいえ右手である。安静にといっても限界がある。少し回復し掛ける。植木鉢を持ち上げて、また、悪化する。これの繰り返し。毎日毎日その話になる。当然である。本人にはかなりしんどい状況なのだ。しかし、旦那の私とすれば、病気とも違うし、原因が分かっているし、安静にする以外にないしと、心配する状況とも違うから、「うん、しんどいけれど、少しずつ回復すると思うよ。本人の筋肉の痛みは手伝えないもんなぁー」と、可哀想だけれど、やや、のんびり口調であった。そして、カミサンのそれは回復したのである。

一週間ほど前に、やや重たいスーツケースを三つ持った。翌日から右手の「わんとうこっきん」に軽い痛み。筋肉痛だろうと思っていた。ピアノRF射頻の練習をする。ブロックコードはあまり腕をない。右手の早弾きソロ。痛いっ! ブロックコードだけにする。まっ、明日は治るだろうと思っていた。翌日、悪化。ビールジョッキといっても小さいガラスの薄い軽いものが持てなくなった。カミサンと同じ状態になった。

「あなた、なんぼ夫婦といっても、あたしの真似しなくたって」
「おまえがうつしたんじゃないのぉー」
「あらっ、そうかもしれないわね。これであたしの痛みが、よぉく理解できるでしょ?」
「はははははぁー、うん、よぉく理解した。他人事ではなくなったっ!」
「お互い古いもここだけ、なぜか日本語なのだ)ねぇー、親愛なる同士君っ!」
「はははははぁー、こりゃー、夫婦愛だねぇー、ったく。老夫婦愛かな?」
と、ワイングラスを持ち上げようとして、「いてっ!」。早朝、夜の仕事六日目。最終日。睡眠不足でよれている。とはいえ、私は昼寝が出来ない性質。働き者体質だから、一旦起きると一日せかせか。酒が飲めない状態なので、ピアノを触っていない。変な論理? 素面で練習も本番も出来ないのだ。わっ、来週コンサートなのだ。
posted by の离别に一縷 at 17:35| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

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